日銀が自然利子率や需給ギャップ、「特殊要因」を除いた消費者物価指数(CPI)など、新しい推計値を公表しました。植田和男総裁が319日の日銀会合後の会見で公表すると明言してから、約1週間余りという早い時期での公表です。これらは4月利上げの布石なのでしょうか。テクニカル的な分析は横に置いて、少し「斜め」から読み解いてみました。

新推計値では、需給ギャップがマイナスから一転プラスとなったほか、自然利子率の推計レンジの下限も0.1%ポイントほどですが「上方修正」されています。「特殊要因」を除いた2月のコア消費者物価指数(CPI)は2.2%と2%を上回りました(総務省発表のコアCPI1.6%でした)。

さらに直近の決定会合議事要旨(1月分)や3月会合の「主な意見」などでも、タカ派的な意見が目立っています。素直に読めば、利上げ近しとみえるのですが、少し「斜め」からみると、すぐには利上げが難しいから、タカ派的な材料を出して円安をけん制しているようにも見えます。

新しい推計値は従来よりも高めとはいえ利上げ待ったなしのような高い値というわけではありません。議事要旨もタカ派意見が目立つとはいえ、大勢の意見は「「特定のペースを念頭に置かずに、経済・物価・金融情勢を丁寧に点検しながら、毎回の決定会合において、適切に判断していくことが望ましい」(1月議事要旨)というものであり、早期利上げがコンセンサスになりつつあるようには見えません。

それにもかかわらずタカ派的な印象を受けるのは、(ちょっと穿った見方ですが)タカ派的な意見やデータを意識的に多めに・前面に出しているのではないかと個人的にはみています。タカ派の意見が1人の政策委員であったとしても、その委員の意見を多めに載せれば、読者の印象は変わります。データ自体は正しいとしても、何を「特殊要因」とするかは日銀の裁量です。

そうしたことを意識的にする理由としては、もちろん利上げを事前に織り込ませたいから、ということが考えられます。しかし、もう1つは、いますぐ利上げは行いにくいので、タカ派意見を出して円安などをけん制するということも考えられるのではないでしょうか。「口先介入」ならぬ「口先利上げ」ですね。

クロス円はそうでもありませんが、米ドルが有事の買いで上昇。ドル円は一時160円を突破しました。ドル建てである原油価格の上昇は円売り材料です。いま為替介入や利上げをしても効かない可能性があります。為替介入や利上げなど「実弾」を打ってしまうと、材料出尽くし感が出てしまい、投機筋にそこをねらわれるおそれもあります。そこで、財務省の「口先介入」に加え、日銀からもタカ派的な材料を出すことで、円安の勢いを弱めようとしているとみるのは考えすぎでしょうか。

特に利上げはインフレ・円安抑制の効果だけでなく、景気抑制の効果も同時に生じます。中東情勢の悪化で、原油価格が上昇しただけでなく、国内ではナフサや尿素など原料そのものの不足に直面。0.25%程度の利上げで国内景気が腰折れするようには見えませんが、様々な要因と重なって、日銀の利上げがきっかけで景気が減速したという責任を押し付けられるリスクは避けたいはずです。

またインフレを抑えること・予防すること(いわゆるビハインド・ザ・カーブに陥らないこと)は重要ですが、いますぐ物価が急騰するという気配がそう強いわけではありません。3月短観も企業が先行きを不安視している様子を示していました。

日銀のターミナルレート(利上げの最終地点)が1.5%だとしても、0.25%の利上げ幅であれば、あと3回で到達してしまいます。円安懸念が払拭されない中では、残り少ない利上げを大事に使うことが重要になってきます。円安が止まらなければ、4月の利上げもあり得ると思いますが、為替が落ち着いていれば、温存する可能性もあるのではないでしょうか。

*「特殊要因」を除いたCPI
特殊要因除いたCPI
(出所:日銀レビュー「基調的な物価上昇率の概念と捉え方」)