日銀が12月に利上げする際の課題は、いかにして打ち止め感を出さないようにするか。打ち止め感が出てしまうと、投機筋が再び円売りを仕掛けて円安が進行しかねません。実質金利の大幅マイナスを強調するのは1つの手ですが、逆に円安材料にされかねないという「副作用」にも気を付ける必要があります。

日銀の植田和男総裁が1日、名古屋での経済界代表者との懇談における挨拶で使ったデータが注目を集めています。実質金利を示しているグラフで、名目金利との差が大きく開いており、実質金利が大幅なマイナス状態、つまり金融環境は緩和的状態であることを示しています。

実質金利は名目金利から期待インフレ率を差し引いたもの(実質金利=名目金利─期待インフレ率)ですが、名目金利や期待インフレ率にもいろいろあるので、どのデータを使用するかで数値が変わってきます。

植田総裁がグラフで使った実質金利は、名目金利を政策金利である無担保コールレート、期待インフレ率を生鮮食品を除く消費者物価指数、いわゆるコアCPIを使って算出しており、実質金利はマイナス2.5%程度を示しています。

一方、日銀はこれまで展望リポートなどで、名目金利を1年物の国債利回り、予想物価上昇率は日銀スタッフの推計値を使ってきました。実質金利はマイナス1.5%程度を示しており、植田総裁が示した実質金利マイナス2.5%程度は、より大きいマイナスということになります。それぞれ期間が違いますが、マイナス幅が大きい実質金利を例示した点に意味があるのではないかとみられているわけです。
実質金利植田2512実質金利展望リポート2510
*グラフ出所:左は日銀植田総裁の121日挨拶より、右は10月日銀展望リポートより

市場では、これを利上げの打ち止め感を出さないようにするためだとの見方が出ています。日銀は、現在は大幅なマイナスである実質金利を縮小させていく過程にあるという説明をしているため、実質金利のマイナス幅が大きければ大きいほど、利上げ余地が残っているということになるからです。

しかし、この手法には逆の作用が働くリスクもあります。為替市場では、実質金利のマイナスを円安材料としてみる向きが少なくないからです。日本は実質金利が大幅なマイナスにあることを強調しすぎてしまうと、諸外国の差が際立ってしまい、円売り材料とされかねません。

では、どうしたらいいか。実質金利や中立金利(ターミナルレート、景気にプラスにもマイナスにもならない金利水準)は正確に測るのは難しいとして曖昧にしておくというのが1つの手でしょう。そうすると、市場は、残りの利上げ回数を予想しにくくなり、大きなリスクを取ってポジションを傾けるのが難しくなります。

そのうえで「経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」という、今の方針の継続を示しておくのです。引き続き緩和環境であるということをいわゆるリフレ派に、利上げを続けるということを投機筋に訴えるのです。矛盾にも聞こえますが、利下げするが、金利は依然引き締め水準にあるとするFRBのように、中銀としてはよくある手法です。

つまり、これまでのスタンスを変化させないことが肝要ではないでしょうか。今回の利上げに特別感が出てしまうと、そろそろ利上げも終わりだなと受け止められてしまうので、できるだけたんたんと、今回の利上げはあくまで正常化路線の途中であり、過程に過ぎないということを強調することが打ち止め感を出さないうえで重要になると思います。